歯科診療における歯科衛生士・歯科助手の業務範囲について

2021/9/29

安心な医療サービスを受けられるかという視点で、国民の関心が高まりつつあるなか、さまざまなマスコミの報道により日本の歯科界の実態(新型コロナウイルス感染症等、感染予防対策問題など)が広く知られるようになってきております。情報化が進んだ現代社会で、この流れは今後ますます加速していくものと思われます。過去にマスコミによる報道では【無資格の歯科助手らがエックス線撮影 歯科医らを書類送検】歯科医師や歯科助手ら計11人が書類送検や【資格のない技士にエックス線操作させた疑い、整形外科医を書類送検】など、先生方も記憶に新しいのではないでしょうか。当然ながら法律上、医療行為におけるエックス線撮影は、診療放射線技師法のもと、医師・歯科医師・診療放射線技師でなければ放射線を人体に照射できないと定められています。
我々の日々の歯科診療における歯科衛生士【予防処置・歯科診療補助・歯科保健指導】・歯科助手【電話対応・予約管理・在庫管理・器具の準備や滅菌等】の業務範囲について全て把握されておられる先生は数少ないと思われます。この診療の補助の業務については、歯科衛生士が医師・歯科医師の指示により医療行為の補助を行うにしても、すべての医療行為を行えるわけではありません。医療行為には、医師・歯科医師が常に自ら行わなければならない高度な危険を伴う医療行為(絶対的歯科医行為)と歯科衛生士や他の医療従事者の能力を考慮した医師・歯科医師の指示に基づいて委ねられる医療行為(相対的歯科医行為)があり、後者が診療補助の対象とされています。歯科衛生士の職務・業務範囲の根拠となるのは昭和二三年に制定された「歯科衛生士法」であります。同法第二条 この法律において「歯科衛生士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、歯科医師(歯科医業をなす事のできる医師を含む。以下同じ。)の指導(常時の立ち合いまでは要しない)の下に、歯牙及び口腔の疾患の予防処置として次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。一 歯牙露出面及び正常な歯茎の遊離縁下の付着物及び沈着物を機械的操作によって除去すること。二 歯牙及び口腔に対して薬物を塗布すること。2 歯科衛生士は保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、歯科診療補助をなすことを業とする事ができる。3 歯科衛生士は、前二項に規定する業務のほか、歯科衛生士の名称を用いて、歯科保健指導をなすことを業とすることができる、と記述されています。歯科診療補助とは、セメント練和やバキューム操作等のアシスタントワークを単に指すものではなく、条文に記載されている医師・歯科医師の指示とは、医師・歯科医師が患者の状況を診ないで『歯石を取っておいてください』ではなく、歯周炎患者の歯周組織検査や歯周初期治療、メインテナンスケア等の適切な診断には時間的な経過が重要であり、歯科衛生士に対しては『ブラッシングでの反応を診ていってください』や『歯石除去後の経過を診ていってください』などが適切な指示となってくるのです。我々歯科医師は、専門職である歯科衛生士の地位を十分に理解する一方で、歯科衛生士による歯科診療補助の解釈にはより慎重に考慮しなければ医師・歯科医師に限らず、それに見合う法的責任が歯科衛生士にも課されてしまうことも忘れてはなりません。

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